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【2】失われた魂

レベル23で受けられるクエスト「失われた魂」より。
フィールドボス「ボアトータス」を討伐後、トウマにクエストアイテム「妖怪の内胆」を届け、祖龍の城東の桟橋にいるピッキに報告に戻るシーンを文章化しました。

ゲーム中ではあっさりしたクエストですが、実際の様子は、こんなところだったかもしれません。


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「ここでいいよ、アキツハ。ありがとう…」
軽く尾を振り、主の命に受諾の意を示すと、錆色の蜻蛉はその姿を消した。
 桟橋に着地。僅かに湿り気を含んだ潮風が頬を撫で、たなびいた自慢の銀髪が輪舞のごとく首筋に踊る。
 背後から響いた小気味良い着地音に気がついたのか、海を見つめていた若年の女性がこちらへ振り返った。
 改めてその姿を目にし、胸が痛む。
 泣き濡れて腫れ上がった両の瞼。胸元できつく握られた小さなこぶし。声が枯れるほどに泣いたのだろう、妖精さん、と弱々しくわたしを呼ぶその声は、可哀そうなまでに掠れきっていた。
 悲哀に端正な顔を歪めながら、しかし意を決した様子で、彼女は問うた。
「夫は…トウマは、どうしていましたか…?」
夫の名を口にしたことで、再び感情が爆ぜたのだろう。揺らぐ彼女の瞳に、また大粒の涙が浮かんだ。一度軽くうなずいてみせ、わたしは口を開く。不安にさせないように、彼女の心の傷が少しでも早く癒えるように、ゆっくりと、できるだけ柔らかく言葉を紡ぐ。
「トウマさんは、もう大丈夫だよ」
沈みきっていた彼女の表情に、微かな光が差す。縋るように、あるいは訝しむように、震える声で、本当ですかと呟いた。
 先ほどより、もうひとつ大きく頷き、わたしは続ける。
「ピッキさんへの伝言も、ちゃんと預かってきたよ」
彼女の濡れた瞳が、ごく僅かに見開かれた。悲しそうに眉を寄せ、愛する夫からの言葉を、ずっと聞きたかった言葉を、ただの一言も聞き逃すまいと薄い唇を固く結ぶ。一呼吸。
「自分はもう大丈夫だから、心配するなって。もう、泣かないでほしいって」
暗い海中で耳にした、その人の言葉。愛に満ち溢れた、妻への言伝。
「悲しい歌も、もう歌うことはないって。それよりも、2人でいたころのような、幸せだったころのような、楽しくて優しい歌を、ピッキさんには歌ってほしいって」
ピッキの目尻から、大粒の雫がついに溢れ出す。大丈夫。ちゃんと伝えるよ、トウマさん…。
「ピッキさんの歌声は、ちゃんと自分に届くからって。暗い水底からは出られなくても、抱きしめることは叶わなくても、ピッキさんの歌が、自分に勇気をくれるからって…」
「トウマ…」
夫の名を呟き、彼女は桟橋にくず折れる。閉じられた瞳から溢れた雫が、頬を流れ、口元に添えられた指を伝い、垂れ落ちて、足元を濡らす。何度も何度も、消え入りそうな声で、愛する人の名を繰り返しながら、嗚咽を漏らす。その姿に、少しだけ目頭が熱くなった。
「ありがとうございます…妖精さん…」
まともに聞き取ることすら叶わない、嗚咽まみれの謝辞。涙に濡れたその言葉が、とても温かい。
 とめどなく溢れ出る雫は、昨日まで流していたものと同じ涙だけれど、でも本当は、少しだけ違うんだよね、ピッキさん。
 今あなたの指先を濡らすその雫は、わたしには何だか、輝いてみえるもの。
 何故だかぼやけた視界の中、小さな肩を震わせて泣き続ける彼女の姿は、とても悲しくて、とても儚げで、そしてとても、美しかった。

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   ・
   ・

 ふと目を覚ます。
 全身に降り注ぐ暖かな陽光。どうやら眠ってしまっていたらしい。
 数日前に、桟橋で出会ったひとりの女性。彼女の夢を、見ていた気がする。彼女は今どうしているだろう。元気にしているだろうか。またつらい気持ちや、寂しい想いを抱いてはいないだろうか。あれ以来、桟橋には立ち寄っていない。少し、心配になった。
 背もたれにしていたらしい天球儀をよじ登り、目を閉じ、耳を澄ます。
 うん…。大丈夫みたい。
 天球儀から飛び降りて、空に向かって大きく伸び。
「んー!いい天気ぃー」
 晴れ渡る祖龍の空には、愛に満ちた軽やかな歌声が、今日も響いている。

-了-
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2010/03/13 5:26 AM, 紗音 wrote:
お遣いクエとか、なんにも読まずに淡々とすすめておりましたが・・
こうやってその世界を深めることもできるのですねえ・・・。
ごめんなさい今読んだから
今日 師匠と ビッキさんのとこに佇んだのは こういうことだったですか・・・。
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