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【4】想いを背負って

 フレしかこのブログは見ていない予感がひしひしとするので、フレ用にひとつ書いてみました。
今回は我が妻、「しゃのん」向けのものです。
 
師弟関係にある「ヴェルグ」と「しゃのん」の少し悲しいお話です。
語り手は弟子である「しゃのん」。あえて描かなかった結末は、読み手ごとに解釈してください。
でわ。


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 視界に、銀髪が揺れた。
上方から迫り来る戦斧とわたしとの間に滑り込んだ人影は、中空で軽やかに舞い踊る。
両の手に装着した手甲を頭上で交差させると、斬撃の軌道はいとも簡単に虚空へ逸れた。慌てて後方へ跳躍し、わたしは彼女から、迫り来る敵の猛撃から距離をとる。
「ばかっ!死にたいの!?」
追撃を受け流し、体勢を崩した敵の腹部を蹴り飛ばして再び空中に舞うと、半身を捻って、彼女はわたしの真横に着地した。
「すみません、師匠…」
とっさに漏れた謝罪の言葉に、敵をねめつけていた視線を刹那こちらに投げ、銀髪の師は小さく息をつく。
「いいわ。それじゃ、しっかり援護をお願いね?」
もうこちらを振り替えることはせず、倒すべき相手に目線を固定したまま、彼女は言った。
 死霊の門。呪われた沼地の中心にほど近い、禍々しき魔窟。生息せし巨悪は六つに及び、そのうちの四はすでに師の手によって打ち倒されている。残るは2体、いや、1体になるのも時間の問題だ。
 真元の青光りを右腕にまとった師が、敵の懐に瞬時に飛び込む。魔が振りかざす戦斧も師の速力を捕らえるには至らない。繰り出された右拳が、その細腕からは想像もつかぬほどの殲滅の力でもって、巨体の腹部を穿つ。呻き、身を縮ませた巨牛を見やることすらなく、銀髪の師は地を蹴った。洞窟の天蓋近くまで舞い上がり、右腕の真元を、すばやく両足の先へと移動させる。膝を軽く折り、かかとを揃えて敵の顔面を蹴り上げた。
 ブラストスフィア。渾身の一撃に、もんどりうって倒れこむ巨躯。中空で反転し着地した師は、すでに次の敵を見据えている。今しがた打ち滅ぼした巨躯の魔物は、全身から仄かな白光を放つと、きらびやかな粒子となって、空中に霧散した。
「あと1匹ね…」
 小さくため息をつき、師は額の汗を拭う。幸いにして最後の魔物は、まだこちらの様子に気がついていないようだ。わたしは腰に下げたバッグから回復ビンを数本取り出し、まだ肩で息をしている師の下へと駆け寄る。
「お怪我は・・・?」
わたしの手渡した回復ビンを受け取りながら、師は小さくクビを振る。ありがとうと呟いて、微笑んだ。
「大きな怪我はないよ。この回復ビンで、充分足りる」
言って、小さなのどを鳴らしながら、薄桃色の液体を一気に飲み干す。空になったビンを受け取ろうと手をさし伸ばすと、その様子を見、師は口元を綻ばせた。持つべきものは、よくできた弟子だね、などと言って笑う。少し甲斐甲斐しすぎたろうか。頬が熱くなった。
「さて、残るはパサホース一体。そろそろいきますか」
頷くと、ちょうど岩壁の向こうから、乱暴に地を踏みならす巨大な足音が響いてきた。もう、すぐそこにいる。銀髪の師が駆け出した。敵が姿を現すと同時に、不意打ちを仕掛けるように、その懐に小柄な身体を滑り込ませる。魔が吼えた。
 長身巨躯を誇る異形と、比べるべくもないほどに小さな女戦士。改めて、師の力に感嘆する。軽やかに中空を舞い踊りながら、圧倒的な速力で戦況を操作する。固唾を呑んで、大勢を見守る。わたしではまだ、この敵を相手に師の力にはなれない。でも大丈夫。師なら、いとも簡単にこの敵を打ち倒すだろう。あの強い師なら、わたしの自慢の
 火花が舞った。全身に激痛が走り、世界が反転する。何が起きたのか分からない。ただ吹き飛ばされ、洞窟の岩壁に激突し、即座に落下する。崩れた岩の塊が頭上に降り注ぐ。
 なぐられた…?何かに、体の左側面を思い切り打たれ、吹き飛ばされた・・・?頭を抑え、ちかちかと白黒に点滅する視界を、必死に正常に保とうとする。あばらが折れたかもしれない。腹部の鎮痛に耐え、何とか身を起した。世界がようやくと本来の姿をとり戻す。
 こふっ・・・。
 その音が、やけに鮮明に魔窟に響いた。
 前方へ、ゆっくりと視線を移す。思考が、完全に停止した。
「ビュート…デモ・・・ン・・・」
苦しげな師の声。突如現われた長身の悪魔が、その鋭いかぎ爪が、師の身体を突きぬけ、華奢な腹部に漆黒の華を咲かせていた。
「師匠・・・!!!」
叫ぶ。のどの奥から、全力で叫ぶ。
どうして?どうしてあいつがここにいるの?倒したはずなのに。打ち滅ぼしたはずなのに。
「倒しきれて、なかったか・・・」
悔しそうに呟いた師の口元がこふりと嫌な音を立てる。赤黒い血の塊が、小さな口からこぼれ出た。その光景に、全身に震えが走る。
 迫っていたのだ。まだ死んでいなかったあの痩躯の悪魔が、わたしたちに、師に復讐するため、背後から迫っていたのだ。途中にいたわたしを背中から弾き飛ばし、パサホースとの戦闘に集中し背を向けている師の身体を、背後からかぎ爪で貫いたのだ。
 師の右手が赤く煌く。体を貫かれた姿勢のまま、身をよじり、背後の悪魔に向かって火球を打ち出した。
 フレイムバスター。煉獄の炎は魔の体を焼き尽くし、今度こそその命のともし火を吹き消した。もともと、殆ど死に掛けていたのだろう。師の一撃で止めを刺された悪魔の身体が、ゆっくりと後方へ倒れこむ。それに呼応し、師の腹部に突き刺さっていたかぎ爪が、粘着質な音を響き鳴らしながらずりゅりと抜け落ちた。その衝撃に呻きながら、師が膝をつく。目の前で斧を構える巨体を見上げながら、血溜りの中に座り込んだ。その手は、自身の腹部に添えられ、鮮血に染まっている。
 助けなきゃ。助けに行かなきゃ。まだ力の入らない身体を何とか奮い立たせ、眩暈に襲われながら、師の座り込む血溜りへ向かう。
 師がこちらを振り向いた。悲しそうな顔。唇が動く。わたしに、何かを言っている。聞こえない。血が吹き出るばかりで、言葉にならない。歩きながら、歩み寄りながら、師の言葉を何とか聞き取ろうと、小さな口元を注視する。
にげ・・・て・・・。
 意味を悟ったのと同時だった。
 振り下ろされた巨大な刃は、師の身体を肩口から反対のわき腹に向かって、斜めに、乱雑に、切り裂いた。
華奢な身体が、崩れおちる。血溜りがぱしゃりと音を立て、銀髪の少女を受け止める。二度、三度と僅かに全身を痙攣させ、そして。
 師は、動かなくなった。
「ああ・・・」
開ききった自らの口元から、意味を成さない咆哮が漏れる。
「あああああ・・・!!!」
師匠が、師匠が、死んだ。
 師匠が、大好きな、わたしの師匠が、死んだ。
 現実感が沸かない。状況が、よく理解できない。師匠と、もう会えない?もう、話せない?もう何も、教えてもらえない?
 嘘だよ。そんなの嘘だよ。こんなこと、あっていいはずがない。師匠が死ぬなんて、こんな唐突にお別れするなんて、そんなのわたし、無理だよ。
 麻痺した思考が紡ぐ希薄な現実感が、時間と共に徐々に形を成していく。舞い戻る冷静な思考が、目の前の光景は現実なんだと、冷酷に知らしめようとする。
 師匠が、死んだ。
 がんばったねと、いつも頭を撫でてくれた、柔らかな掌。冗談を言っては、からかうように鼻先をつついた白く細い指。泣いてしまったときには、いつまででも抱きしめていてくれた、暖かな両の手。
「し…しょう…」
迷いを漏らせば、黙って往く道を示してくれた、小さな背中。ただ前だけを見つめ、いかなるときにも輝きを失わなかった、真っ直ぐな瞳。
 その全てが、大好きだった師の全てが、無残に切り裂かれ、真紅にまみれて今そこにある。
涙が止まらない。胸が苦しい。自然に漏れる嗚咽を押し殺すことすら、到底叶わない程の悲哀。泣かないって決めたのに。悲しい顔は、見せないって誓ったのに。
くず折れる。胸を押さえてうずくまる。
 わたしに、力がたりないから。わたしが、何もできなかったから。自責の念が、胸のうちから鎌首を擡げては、大粒の雫となって瞳に溢れる。流れ落ちた涙跡でしとどに濡れた手甲が、膝先にふれてかちゃりと音を立てた。
 「ねえ、しゃのん…」
師に従事して間もない頃、旅の道すがらに聞いた師の言葉が、ゆらりと脳裏に蘇る。確か幽冥境を踏破し、互いに土まみれの鎧姿で、祖龍に続く街道を歩いていたように思う。3度に渡る戦闘で、ただの一度も師の役に立てなかったと落ち込むわたしに、歩みを止めて振り返り、師はこう言った。夕風にたなびく美しい銀髪を右の手で軽く押さえながら、とても優しい表情で。
「わたしは、そうは思わないな。君はちゃんと、わたしを助けていてくれたよ」
怪訝な表情をしていたのだろう。師は一度からからと笑って、こんな風に続けてくれた。
「強くなるってさ、戦闘において、誰かの盾になれるようになるってことなのかな?敵を穿つ、強力な矛になれるようになるってことなのかな?わたしは、違うとおもうな。強くなるっていうのは、きっと、より多くの想いを背負えるようになるってことなんだよ。沢山の人の思いを背負って、でもその重みに折れることなく、背筋を伸ばして前を見れるようになるってことなんだよ。」
オールドブルーの瞳を僅かに細め、師は私の頬にそっと触れる。
「わたしにも、君にかける想いがある。そして君はちゃんと、その想いを背負ってくれてる。だから、君はいまのまま進みなさい。自分を責めたり、過去を振り返ったりしないで、前だけを見て歩きなさい。そうすれば、戦う力は必ずついてくる。ね?しゃのん」
 大気を震わせる咆哮。迫り来る巨大な影。今にもわたし自身を押しつぶそうとするその足音に、ふと我に帰る。
「そうだ…わたしは…」
爪先に、両の膝に、ゆっくりと力が戻る。
「わたしは…師匠に…」
起き上がる。流れ続ける涙をぬぐうこともせず、きつく拳を握りしめる。
「その想いを背負うって、誓ったんだ…」
数歩先の距離まで迫った魔獣の息遣い。口元から粘着質な音が漏れ、灯篭の明かりに大振りな牙が煌く。
 いつだって、まっすぐに未来を見つめていた師。周囲の戦士達に追い越されていく焦燥感もあったろうに、わたしのために、時間の全てをかけてくれた優しい師。祖龍の未来を君が背負うんだと、暖かな想いでわたしを包んでくれた、大好きな師。わたしは確かに、その想いを背負っているんだ。
 腕を引く。両足のバネに蓄力し、低く構える。
 眼前の魔が放つ禍々しい気が、全身に震えを走らせては、後方へと突き抜けていく。勝てないのは分かっている。戦ってはいけないことも、師がそれを望まないことも分かっている。だけど、だけど何よりもはっきりと分かるのは、この想いから、絶対に逃げてはいけないということ。師の想いを背負い、いつかそれに報いたいと誓った過去の自分に、絶対に背を向けてはいけないということ!
 身体に充ちた真元を、両の拳に注ぎ込む。
 師匠。もし、もし天国で会えたら、きっと褒めて下さいね。がんばったねって、いつもみたいに、優しく頭を撫でてくださいね。
 巨体が大斧を振りかざし、眼前に迫る。膝にためた力を解き放ち、わたしもまた、虚空へと舞う。
「師の痛み、思い知れっ!!」
 襲い来る漆黒の刃に向け、右の拳を思い切り、突き出した。

-了-
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Comment:
2010/03/14 5:21 PM, 紗音 wrote:
ごふっ・・・・

ごめんなさい、今回、感想書けません・・・

(いろんな意味で・・・・)













スバラシイデス シショウ…
2010/03/14 8:05 PM, カナン wrote:
見・た・ぞ!

なんか、スゲー文才なんですけど・・・
ゴーストライターでも雇用すてるのですか?

面白いです。今後の展開も期待しております^^
2010/03/15 1:23 AM, Velgr wrote:
カナンさん、妻、コメありがとうw
見てくれてる人がいるだけで嬉しいっすw

気が向いた時にでも、また見に来てくださいませませm(_ _)m
2010/03/18 3:24 PM, azreal wrote:
しっ…
ししょぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!



しゃのん、頑張るのだぞ…・゚・(ノД`;)・゚・
2010/04/04 6:47 PM, 狼羽 wrote:
初めまして、お邪魔いたします^^
以前よりこっそり拝見致しておりました(w)狼羽(ろうは)と申します。
私も完美ネタで何か書きたいと思いつつ、そんな文才も無く・・・Orz
いつも楽しく読ませて頂いております^^
これからも期待していますよ(ナニw
2010/04/18 4:00 AM, Velgr wrote:
狼羽さん、読んでいただきありがとうございます( ̄∇ ̄*)
てか、放置してたからまったくコメにきづきませんでした・・・。ごめんちゃい・・・(。´Д⊂)

ちょっとずつ更新していきますので、ぜひまた見に来てくらさいませませm(_ _)m
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